ドクター・サーブ―中村哲の15年

中村哲氏の訃報を聞いて、どんな人だったのか知ろうと思ってこの本を手に取った。その生き方は圧巻である。この本は良くニュースなどで聞いたフレーズである「病院より、用水路を造った医者」という側面を説明は取材されていない。用水路を創る前の医療が全く整っておらず、らい病で多くの人が苦しむアフガニスタンに病院を建設しするまでの中村哲氏の半生が描かれる。しかし、それが凄まじい、なぜ用水路を造るようになったのかは、この本を読めばおのずとうなづける気がする。筆者である丸山氏は「何が中村氏を突き動かしているのか」を知ろうと取材を試みる。はっきりとした問いがあるのでこの本は大変読みやすいし、最後まで興味深く読める。全体を通して感じたのは、アフガニスタンに生きるということの厳しさ、その反面日本がいかに恵まれているかまた、日本がその経済的発展の中で一体何を見失ったのかということである。ページをめくるたびに、日本人のある種の貧しさを感じた。それは例えば、アフガニスタンでは灼熱の大地と砂埃の中人々は生きるのに精いっぱいである。乾燥したアフガニスタンでは男性も女性も日本人よりはるかに年上に見えるそうだ。５０歳台の女性が老婆に見える。しかし、その中で人々は助け合ったり、医療行為を受けれることにものすごい喜びを感じる。そして、死ぬこと病も自然の摂理として受け入れていく。ここでは簡単に命が失われていく、しかし、中村はその失われようとする命の前に、医師として身体が動くのである。一方の日本では、一見何不自由ない経済生活を謳歌している。携帯もあるテレビもある。コンビニに行けば棚いっぱいに食品が並び、多くは廃棄される。人々はアンチエイジングに忙しい。その一方で、何のために生きるか見失い、肉体労働を失った我々はテレビで肥満対策の健康番組を見る。こうした日本人の生活の貧しさをこの本を読むと感じるのだ。自然と乖離した生活というのだろうか。この本の最後に、筆者は中村哲氏に以下のような質問をしている「「いまの世の中に、真実と呼べるものがあるんでしょうか。誰もが生活に汲々として、人間関係が年を追って殺伐となり、漠たる不安だけがはびこっている今の日本に、信じれるものがあるんでしょうか。・・・・。私は先生の活動に、それがあると思ったから書こうとしたのですが、名もない無名の物書きが、駄文を弄したところで、それがいったい何の意味になるんでしょうか・・・」中村は車窓を眺めていた。常に変わらぬ山岳が頭上にあった。神々しい輝きが、我々人間を見下ろしていた。そして中村は、こうつぶやいた。「・・・・分かるひとには、分かろうて」真実を、その善性を、中村は言葉で語らない。ただ、実行するだけである。」この一文に出会えてよかった。中村は、ただ実行した人なのだ。